top of page

被害は出尽くしたし、反省もしているし改善もしている。もう許してやろうよ」となりきれない理由

  • 3月7日
  • 読了時間: 8分

更新日:3月9日

先日、東京高裁が旧統一教会に解散命令を出した。被害総額は少なくとも204億円、被害者は1500人超とされている。


ただ、この数字に含まれているのは、「訴えることができた人の被害」だけだ。


表に出ていない被害がある。というより、構造的に、表に出ようがない被害がある。今日はそのことを書く。


■ 借金をさせて献金に回す仕組み

教団内では、献金のための資金調達活動に「摂理」(神の計画)の名がつくことがあった。ここでは便宜上「クレジットカード摂理」と呼ぶ。


仕組みは単純だ。複数のクレジットカードを契約し、キャッシング枠で現金を引き出して、そのまま献金に回す。最後は返済不能になって自己破産する。


自己破産すれば借金はなくなる。けれど、引き出したお金はすでに献金として教団に渡っている。損をするのはカード会社で、信者は信用情報に大きな傷が残る。潤うのは教団だけだ。


これは元信者の証言や弁護士団の発表でも裏付けられている。全国霊感商法対策弁護士連絡会は「自己破産させられた信者はたくさんいる」と明言しており、元信者のジャーナリスト・多田文明氏も、教団内で「カードで借金してでも献金するよう指示されていた」実態を証言している。これは内部にいる食口も同じ意見だと思う(いつの話をぶり返してるんだと反論されそうだが)


そして、この被害が回復されることは、構造的にほぼない。理由は3つある。


第一に、信者本人が被害を被害だと認識しない。「神のための献金」として自分の意思でやっている認識がある以上、返還を求める動機がそもそも生まれない。脱会して初めて気づく人もいるが、その時にはもう手遅れになっている。


第二に、自己破産の事実は事実上取り消せない。制度上は免責取消し(破産法254条)があるが、実際に適用されることはほぼない。「教団に騙されていた」と後から気づいても、信用情報の傷はそのまま残る。被害に気づいた瞬間、もう不可逆になっている。


第三に、カード会社には追及するインセンティブがない。自己破産による貸倒れは、カード会社にとって統計的に織り込まれたリスクの一つだ。一件一件「背後に宗教団体の組織的関与があったのか」を調べ、立証するコストは、回収できる見込みを簡単に上回る。結局は通常の貸倒れとして損失処理され、そのコストは金利や手数料として利用者全体に薄く転嫁されていく。


信者は声を上げようと思わない。気づいた時には元に戻せない。カード会社も追及しない。この三重のロックで、誰も声を上げない構造が完成していた。当時、教団だけがほぼノーリスクで資金を得られる仕組みだった。


■ 見えない融資詐欺

さらに表に出にくい話がある。


これは私自身の繋がりの中にある、実際の事例だ。ただし、ここで情報源を具体的に明かすことはにとってのリスクであると同時に、周囲の関係者を特定させることにもなりかねない。(私は一切関与していいないし最近知った)そして、まさにそのこと自体が、この種の被害が表に出ない理由の一つでもある。


仕組みはこうだ。個人事業主の信者が確定申告で売上を水増しする。実際の取引はなく、書類上だけで信者同士の架空売上を作る。個人の確定申告では税務署が通帳まで突合することはほぼないため、これが通ってしまう。


水増しされた収入で住宅ローンの審査を通し、本来の収入では組めないような高額のローンを組む。物件を購入した後は、リフォーム名目でさらに追加融資を引き出す。


このスキームを指南した人物は「コンサル料」「契約書作成料」として報酬を得ていた。「ビジネスで成功した」ことを演出し、自分の実績として信頼を得ながら、信者にこの手法を広めていた。そしてその人物自身も献金をしていた。


これが個人の利得のためだったのか、献金原資を作るためだったのか、その両方だったのか、外からは判別しにくい。しかし、教団が達成困難な献金ノルマを課していたことは裁判所も認定している事実であり、こうしたスキームが生まれる土壌があったことは間違いない。


そして、この被害が「被害」として掬い上げられにくいのは、構造的にそうなっている。理由は3つある。


第一に、金融機関側の処理が"通常フロー"で完結する。返済不能になれば、担保物件を競売にかけ、保証会社が代位弁済する。金融機関としてはそこで損失処理が終わる。「なぜ収入を偽ったのか」「背後に宗教団体の関与があったのか」まで掘り下げる必要が、業務上ほとんど発生しない。


第二に、教団との紐付けが事実上できない。外から見えるのは「ローンが払えなくなった個人」だけだ。書類の作り込み、関係者の連鎖、献金ノルマの圧力——それらが一本の線として立証される前に、案件は個別の与信事故として分解されてしまう。


第三に、声を上げる側が"特定リスク"を背負う。この種の事例を知る者が告発しようとすれば、情報源を明かすリスクが避けられない。周囲の関係者を巻き込む可能性もある。だから黙る。沈黙が合理的な選択になってしまう。


金融機関は深掘りしない。紐付けはできない。声を上げると危険が増える。この3点が噛み合って、被害は最初から"見えない形"で処理されていく。損失は金融機関と保証会社が負い、そのコストは金利や保証料として他の借り手全体に転嫁される。結果として、誰の被害としても可視化されない。


■ 2世が負う、数字にならない被害

<これに加えて、自分を育ててくれた家族に対しての配慮も大きい。。>


3つ目は、今まさに多くの2世が直面している問題だ。


親の高額献金によって、2世は貧困を強いられる。教育の機会を失い、進学を諦め、就職にも影響が出る。精神的な負荷から心身に深刻な影響が出ている人も少なくない。


(もし今つらい状況にある方は、一人で抱え込まないでほしい。記事の末尾に相談先を記載している。)


これは外部からの推測ではない。教団内部においても、2世のメンタルヘルスの問題は認知されていた。2世の精神的危機が教団内部の研修資料にも取り上げられるほど、組織として問題の存在を把握していた。


にもかかわらず、抜本的な改革は行われなかった。問題を認知していながら、献金の構造そのものには手をつけず、2世の苦しみを生み出す根本原因を放置し続けた。そして現在も苦しんでいる人がいる。


それでも、この被害が「救済」につながりにくいのは、制度がそう設計されているからだ。理由は3つある。


第一に、請求権の入口に立てない。献金被害の損害賠償請求ができるのは、原則として献金をした本人だ。2世が「親の献金のせいで自分が被害を受けた」と言っても、その時点で制度の入口が狭い。


第二に、因果関係の立証が極端に難しい。親が存命で、かつ「自分の意思で献金した」と主張している場合、2世の側から「それが自分の貧困・機会損失・精神的被害につながった」と法的に結びつけるのは困難を極める。苦しみが現実であるほど、法廷の言語に翻訳しにくい。


第三に、戦うためのコストを当事者が負えない。仮に訴訟を起こせたとしても、機会損失の損害額算定は難しく、立証のための時間も費用もかかる。経済的に困窮している2世にとって、弁護士費用を負担して何年も裁判を続けるのは現実的ではない。


入口が狭い。立証が難しい。コストが重い。この三重の壁によって、2世の被害は「制度の隙間」に落ち続ける。教団は問題を認知しながら放置し、当事者は声を上げたくても、上げるための制度がない。


解散命令で認定された204億円、1500人超の被害。これは被害の全部といえるのか。

クレジットカード摂理のように、誰も声を上げないまま完結してしまう被害がある。融資詐欺のように、声を上げること自体が周囲を巻き込むリスクになる被害がある。そして2世のように、制度上請求する手段すら用意されていない被害がある。


もし今、この記事を読んでいるあなたが当事者なら。信者として、元信者として、2世として、何か抱えているものがあるなら。声を上げることは、一人でやらなくていい。


全国霊感商法対策弁護士連絡会、法テラス、各地の消費生活センター。相談できる場所はある。すぐに訴訟を起こす必要もない。まずは話を聞いてもらうところから始められる。


そして最後に、一つだけ付け加えたいことがある。


東京高裁の決定要旨によれば、旧統一教会の献金収入の予算額は年間500億円前後で推移し、2022年度には560億円に達していた。そのうち毎年数十億〜百数十億円が韓国に送金され、送金額の9割超が韓国向けだったと認定されている。その中には、純粋な信仰に基づいて自発的に捧げられた献金もあれば、不安を煽られて搾取された金額もある。同じ1万円でも、献金した本人の認識、周囲から見た評価、法的な判断によって、「それが被害かどうか」の色は変わる。


グラデーションのある巨額の金の流れに対して、社会として線を引かなければならない。それがどれほど難しい作業か。質問権の行使、調査、審理。数年にわたるプロセスを経て出されたのが、今回の解散命令だ。


このプロセスの全貌を理解することは、誰にとっても不可能に近い。けれど、そこに携わった人々、最終的に意思決定をした国のプロセスに対しては、一定のリスペクトが必要だと思っている。もちろん個別具体の論点について、是々非々で反論がなされることは民主主義の前提だ。ただ、プロセスそのものへの理解や敬意があるかどうかで、反論の質は変わる。


そのプロセスが救えていない人がいる。制度の外側に落ちている被害がある。だからこそ、ここに記しておきたい。


声を上げられなかった人がいる。 声の上げ方が分からなかった人がいる。 声を上げる制度すらなかった人がいる。



でも今は、少しずつ、その道が開かれつつある。



<諸々の相談先>


①宗教2世ホットライン

宗教2世を中心に、弁護士・公認心理師・社会福祉士・牧師・僧侶・学者などの有志が運営。LINEフォームで相談受付。


②全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)

旧統一教会の被害に特化した弁護士団体。記事本文でも言及している相談窓口。電話・メール相談可。


③法テラス(日本司法支援センター)

経済的に困窮している方向けに弁護士費用の立替制度あり。2世で訴訟を検討している場合にも有効。


④よりそいホットライン

0120-279-338(24時間)

宗教問題・DV・精神的苦痛など幅広く対応。匿名OK・無料・24時間。2世の精神的サポートにも。


⑤消費生活センター(各地)

高額献金などの消費者被害として相談できる窓口。全国に設置あり。

最新記事

すべて表示
今思うこと

統一教会に解散命令が出ました。 記事でチラッと見た限りですが、教会側は、悲しむ信者の声が…ということを言っているみたいです。 強盗がナイフを突き立て 「人質がどうなってもいいのか!」と言っているイメージが浮かぶのは私だけでしょうか。...

 
 
 
母との関係

この記事は誰かのための道しるべでもなく、誰かへのSOSでもなく、ただその時感じたことを記録として残しておくためだけのものである。 ※自身のnoteに書いた記事のセルフ転載です。 2025年現在の関係 著者子供時代と母 実家を出てから 銃撃事件後の1年間 現在の想い...

 
 
 

©︎ 

2020  宗教2世ホットライン 

bottom of page