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心のケア活動として-トラウマインフォームド・ケアを学ぶ、理解する- 井田雫

更新日:2023年1月8日


心のケアは宗教によって傷ついた全ての人へ

トラウマを背負うということは子供であっても大人であっても耐え難い状況になるということ。

「心のケア」は2世限定の話としてではなく、宗教によってトラウマを背負った全ての人に向けての内容を発信していきたいと思っています。


2022年12月下旬、公認心理師の香川裕美さんによる「トラウマインフォームド・ケア」についての講習を発信活動を活発にしている2世中心に向けて開催していただきました。

この講習のきっかけは、発信活動を少しおやすみしていた奥野まきさん(仮名)が活動にて疲弊している2世たちを心配して企画してくれたものです。

奥野さん曰く

「問題への取り組みに熱中するあまり周りへの配慮ができない場面や、メディアや当事者間のやりとりの問題含め、互いに傷つける状況にもなっている。トラウマを抱えた人を相手にしているということを理解してもらいたい」

との思いがあってのことです。


まず「知る」ことが大事ですが、知ったうえで相手を理解しようとする気持ちを持つことが一番大事です。


今回はその講習でのお話を一部かいつまんでお伝えしたいと思います。


以下、香川裕美さんの講習より抜粋。

(監修:奥野まきさん)


生きづらさの多くの原因は「トラウマ症状」

支援者と当事者の間で治療において関係がうまくいかない状況をなんとかするために始まったのがこの「トラウマインフォームド・ケア」となります。

トラウマを理解することで再被害を防ぐことにもなります。


■再被害を防ぐ視点とは・・・

・困った人は困っている人の視点

・傷つけない、傷つかないための視点

・二次被害を起こさないために

・二次受傷(共感疲労)から支援者も守る


トラウマの定義とは

・嫌な場面を見た、経験した

・繰り返し繰り返し経験してしまうもの


これらのトラウマの記憶は冷凍保存記憶であり

圧倒的な体験によって、トラウマ記憶という特殊なメモリーネットワークが生じる


トラウマを持ってしまった場合、どのようなきっかけで「再体験」に繋がってしまうのか

・狭い部屋

・匂い(当時と同じ匂い等)

・親族の中で出ている事件に関する話題

・加害者に似た人に会う

・大声で怒鳴られる等

・自分の経験と似たようなニュース


自分の経験したことと同じような状況になったりすることが過去のトラウマを呼び起こすきっかけになってしまうことが多いのです。


トラウマをもつ人にどのように接すれば良いのか

見える化するためのトラウマメガネをかける

・トラウマについての知識をもつ

・トラウマによりどんな影響を受けているかを知る

・どのような対応が可能かを知る


■フラッシュバックを起こしていると気づける

不安、恐怖、怒り、無力感、自責感



→これらに対しても知識があると再体験が原因にあると気づけます。


支援者が当事者に接している時に攻撃的な場面を目にすることもあると思います。

これは「過覚醒」と言って、トラウマによる影響の一つだったりすることもあります。

■過覚醒(神経過敏)

・苛立ちやすい、攻撃的になる

・自己破壊的行動

・過度な警戒心

・睡眠障害

・集中できなくなる

■感情調整の困難

・感情的反応が過剰、乏しい状態が続く

・トラウマを受けた時の状況が残っている状態

(ブレーキとアクセルを両方踏んでいるとエンストしたり、急ブレーキ状態で正常な行動ができない)


支援者から見たら、なぜ?と思うような以下の行動もトラウマが背景にあります。

・常にびくついている

・相手によって態度を強く変える

・常に自分と他者を比較してしまう

・自分のことより他者を優先する


また、トラウマを持つ人が何かに依存するのはトラウマから抜け出そうとするための行動であったりもします。

トラウマをもつ人の特徴としては以下のような「境界線(バウンダリー)」と呼ばれる状態もあります。

・トラウマの影響で境界線が曖昧になっている

・自分の責任の所在と他者の責任の所在を混同している

・他者の責任を自分の問題にしている

・他者がやるべきことを自分でやるためにエネルギーを余計に使ってしまう


境界線をはっきりさせるためには

■当事者側 ・物理的・・・近くに座らない、物理的な距離をおく

・心理的・・・断ることを練習する、断れないのをやめる、自分はどうしたいのかを意識する

■支援者側

友達関係であった場合、毎晩電話かかってくるなどの状況になったら

→時間の区切りをして話す、自分の都合を優先させて枠組みを作る


自殺の大きな原因は孤立

当事者のトラウマが行動の背景にあるかもしれないと言うことを理解することは大事です。

しかし、支援者側も引っ張られすぎないための行動・意識が大事になります。


支援者、当事者や周囲の人による二次被害

無理解や誤った情報で支援者から傷つけられることによる二次被害もあります。

これは7月の事件以降、非常に顕著になっており深刻な状況です。

取材や、当事者同士のコミュニケーション、Twitter上でのやりとりの中でもよく見られます。

二次被害:専門家から、周囲から、報道機関から

三次被害:家庭崩壊、仕事を失う


■身近な人からの二次被害例

・騙される方が悪いと言われる

・セクハラというのは自意識過剰ではないのか?と言われる

・早く元気になってと言われる(焦りにつながる)

・あなたのためを思って厳しくしているのかも、と言われる

・お気の毒に、かわいそうに、という同情

・なんでいじめを受けていたと言わなかったの?と責められる(渦中にいる時は言うことが難しい)

・「もっと大変な人もいる」と言われる

・「何年も前のことなのにまだ言うのか」と言われる

・「あなたの親は毒親だった」と言われる


これらの例を見ていると、想像力の欠如や悪気がなかったとしても普段使っている言葉が傷つけるきっかけになってしまうこともあります。

このような言葉が出てしまう背景としては「いつまでもこだわるのはよくない」「辛い話を何度も聞くのが辛い」と言う考え方もあります。


■報道被害

・マスコミからの被害者やその家族・関係者に対しての取材合戦により、精神的な苦痛を与えられる

・個人情報が拡散される

・事実に反する報道をされることでそれが事実として世間に思われてしまっても、被害者にそれを打ち消す方法やエネルギーがない


これに関しては統一教会問題に限らず、どのような報道にも言えることですが、トラウマの二次被害に加担してしまう状況になることもあります。

トラウマの影響というものをまずは理解してもらえると当事者からしても非常に助かります。


被害者支援に必要なこと

■何に困っているのか?という視点が大事

・気持ちを聞く

・どんな感情も責めないで受け止める

・あなたが悪いのではないと伝える

・当然の反応だということを理解してもらう

・被害者を弱い存在にしない


4つのR

・知識をもち、理解する(Realize)

・気づく(Recognize)

・対応する(Respond)

・再トラウマ化の予防(Re-traumatization)


6つの原則

・安全(環境・関係・心身)

・信頼と透明性(見えやすくわかりやすく なぜこういう行動しているか説明する)

・ピア・サポート(仲間との相互自助)

・協働と相互性(お互いに尊重する)

・エンパワメント(その人の力が発揮できることを信じる)

・文化・歴史・ジェンダーへの配慮


支援者にとっても当事者にとっても大切なこと

・トラウマケア関連のトレーニングを受ける

・個人的な未処理の課題を個人セラピーなどで取り扱う

・トラウマケアはチームで行う

・プライベートを充実させる

バランスが大事!!


なお、トラウマについて詳しく知りたい方は

トラウマのことがわかる本」(著:白川 美也子氏)をお勧めします。



筆者自身のトラウマと二次被害体験

このような講習を受けて、自分の経験の中にトラウマのきっかけとなるものがあることに気づきました。

元々父(非信者)は怖い存在でした。

30年前、旧統一教会が騒がれた時に父の反対の意志は強固なものとなり、父にビクビクする母を見て自分自身も母の活動が父にバレないように気を遣う子供でした。

時に怒鳴ったり、しつこく責めるような父の言動にびくついている母の図は自分の中にもかなり強く残っているということに、事件後にようやく自覚することができました。

今でも他人からしつこく言われたり長文で責めるような文字のやりとりには動悸がひどい状態になります。

文字のやりとりだから、相手には伝わりませんがその文字を打つ手は震えています。

文字を打つどころか思考停止状態に陥り、「自分が悪かったです。ごめんなさい」これを絞り出すだけで精一杯になることもあります。



トラウマインフォームド・ケアは講習を受けただけで理解した気になるのではなく、相手の状況に向き合う姿勢を持つことが一番大事な部分だと思います。

メディア関係者、支援者、当事者全ての人がまずは「トラウマインフォームド・ケア」の内容を理解することの大切さを7月の事件以降に実感しました。

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