ひとは、存在感を消そうとする時、目線を少し下に落とし、無表情になる。僕もその両方をしていた。
つまり、あからさまに「存在感を消そうとしてるオーラ」が漂っており、言わば、「存在感を消そうとしているという存在感」が、体から、ギンギラギンに放出されていたのである。
目線のさきには、錆びたパイプ椅子があった。
選ばないでくれ。僕は心のなかで祈った。代表祈祷をしたくないと祈ったのである。意味がわからない。
そして選ばれた。
落ち着いた声が、僕のフルネームを呼んだ。進行役のヒョンもいじわるだ。
優しい顔した鬼だ。あらためて見るとこいつ、目の奥が笑ってない気がしなくもない
。
そして、ゆっくりと席を立ち、講壇につく。一面に広がっいる芋畑を見ながら、かるく息を吸う。
「お祈りします。」目を瞑った。芋達も目を瞑る。「天のお父様、真の御父母様…」
お祈りでは、おもにjr.選抜のことを話した。愛する兄弟姉妹が頑張っているとか、神様の御旨には届かない私達でありますが等の、ありきたりな言葉を、口から出任せでしゃべる。
心にも想ってないことを、その場しのぎのように。実家に住んでいる、学生のうちはしょうがないと、頭では納得していても、やはり虚しい気分になってくる。どこかの違う生活が恋しくなるのだ。
そそくさと席に戻ると、個人祈祷が始まって、周りが一声に喋りだした。声の大きいもの、小さいもの。この中には、僕のように、信仰のない人も居るのだろうか。ふと、そんなことを思う。
もし居たとしたら、どうにか話してみたい気もするが、万一のことを考えると、そんな気もすぐ失せてしまった。
個人祈祷が終わっても、僕の気持ちは虚しいままだった。成和部長が何か話しているが、何もかもがモノクロで、音がなく、まるで昔のサイレント映画を見ているような、そんな気がした。
そして僕は、礼拝が終わると、エレベーターも使わず、人気の少ない階段から、一目散に降りていくのであった。
(完)
外部リンク hatena blog 『天の父母様教団』
炭酸水
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