アクセルをひねる。こうしている時が一番気楽かもしれない。
運転に気を配りながらも、頭のなかに流れては去っていくイメージに身を任せればそれでいい。ふいにどこかから定食屋のにおいがして腹がへる。秋風が心地良い。
運転してしばらくたつと背伸びがしたくなった。ちょうど牛丼屋を通りすぎたので、あと五分ほどで教会につく計算になる。ここでいったん、路肩に停車してスマホを取り出し、時間を確認する。
「少しはやいな。」めずらしくあまり信号にかからなかったのだ。
このまま教会についたとしても、ゆっくり出来るわけでもなく、礼拝前の、パイプ椅子並べを手伝わされるのがオチだろう。
しかし、それならまだいい方で、もっと最悪なのは、先について準備をしている青年部長に話しかけられ、会話に付き合わされるパターンである。しかもその会話というのが、ほとんどインタビューに近い質問の嵐か、あるいは興味のない話を、エンドレスで話されるかのどちらかで、それはコミュニケーションとは程遠い、どちらかと言えば拷問にちかいものなのである。それだけは避けたい。ここは教会付近のコンビニで、時間を潰すとするか。
コンビニの10メートル手前で、クラッチを握り、エンジンを切ってゆるい下り坂を惰性でそのまま進んでいく。今のおいらと同じだ。惰性で親に信仰のあるふりを続けている。
バイクを停めると、左足で素早くスタンドをたて、ヘルメットをとる。
背伸びをして、利き手で髪の毛をワシャワシャする。やっと一息。
のみきれるサイズのミルクティーを購って外にでる。ストローから摂取した糖分で、脳みそがほぐれていくのがわかる。
「はぁ」おもわずため息がでる。「ぷぅ」ついでに屁もでた。
半分ほど飲み干した頃合い、道路を挟んだ向こうの歩道に、ヒョンが歩いているのが見えた。礼拝に向かう途中だろう。ちなみに「ヒョン」というのは、韓国語で兄をさす男言葉であり、韓国発祥の統一教会では、年上の男性を呼ぶさいにつかったりする。ヒョンはスマホでゲームをしている様子だった。顔面と画面の距離が異常に近い。
空のカップをゴミ箱にほおりこみ、バイクに乗ると、すぐに教会についた。階段下のスペースに駐車して、扉を開ける。
なんだか今日はとくに気が進まない。エレベーターにのったら五階のボタンを押す。相変わらずゆっくりとしたエレベーターだ。いっそのことこのまま着かなくてもいいのに。
五階に到着すると、無駄にテンションの高い受付係と挨拶をかわし、名簿に汚い字で名前を書いて、礼拝堂に足を入れる。
とうとう着いてしまった。
炭酸水
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